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マンション修繕、税優遇の利用低調 積立金の不足背景に

大規模修繕したマンションの固定資産税を優遇する制度の利用が進んでいない。老朽マンションの修繕を促す政策として期待が高かったものの、要件の厳しさがハードルになっている。
税優遇の期限が迫るなか、国土交通省は制度の延長を要望する構えだ。自治体からは使い勝手の向上など仕組みの見直しを求める声が出ている。

税優遇は老朽化したマンションの屋根や床の防水のほか、外壁の塗装といった大規模修繕工事をした場合に、100平方メートル分までの建物部分について翌年度の固定資産税を軽減するもの。
軽減割合は6分の1〜2分の1の範囲内で、各自治体が条例で定める。

対象となるマンションの要件は
①築20年以上で10戸以上
②長寿命化工事を過去に1回以上適切に実施
③工事に必要な積立金を確保している
――などとなっている。23年4月〜25年3月の間に工事を完了していなければならず、ハードルの高さが指摘されている。

国交省によると、23年11月末までに申請件数は10棟にとどまっている。現時点においても利用は大きく増えていないとみられる。23年度税制改正の要望の際は、24年度中に3.9万戸の適用を見込んでいた。
国交省の推計では、築40年以上のマンションは22年末時点でおよそ125万戸あり、20年後には3.5倍に膨らむ見通しだ。修繕工事を適切に実施しなければ、外壁がはがれ落ちるといった危険が高まる。
老朽化が進んでも、住民の合意形成ができず、危険を放置したままとなれば、最終的に行政側で解体せざるを得ない事態も予想される。費用を回収できなければ、地方自治体の負担が増す恐れもある。

修繕工事が進まない要因として、積立金の不足があげられる。国交省の23年度調査では、積立金が不足しているマンションは全国で36.6%に上った。
税優遇が適用されるには国が定める基準額になるまで毎月の負担額を引き上げる必要がある。ただ、住民の間で合意に至らず、調整が難航するケースは少なくない。

大和ハウスグループの大和ライフネクストが運営するマンションみらい価値研究所の久保依子所長は、適用要件をクリアできる築20年以上のマンションは全国でおよそ1%にすぎないと試算する。
久保氏は今の税優遇について「対象が狭すぎる」と指摘する。
税優遇の適用には所有者ごとの申請が必要で、住戸が多いマンションでは手続きが煩雑になるといった問題もある。
マンション政策を議論する国交省のワーキンググループ(WG)は6月のとりまとめで、税優遇の「実績は限定的」だとの考えを示した。自治体からは適用要件の緩和や制度の期限延長を求める声が上がっているとの報告もあった。
国交省の担当者は税優遇に関して「24年度末で特例を終了させるべきではないと考えており、対応を検討していく」と話す。同省は優遇措置の効果を検証する調査を実施し、8月末までの総務省への税制改正要望で期限の延長を求める調整に入る。


(提供:2024年8月5日 日本経済新聞)


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