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世界の政府債務、過去最高1.3京円 選挙イヤーで拍車

世界で政府債務が拡大している。各国の債務の合計は3月末時点で91.4兆ドル(約1.3京円)と前年から5.8%増え、過去最高額を更新した。2024年は70以上の国政選挙が行われる選挙イヤーで、多くの国が財政拡張を進めた。金利上昇による利払い費の急増も、膨張に歯止めをかけにくくしている。

政府債務、GDP比でも上昇
国際金融協会(IIF)の集計によると、世界の政府債務の合計は国内総生産(GDP)比で98.1%と前年より2.2ポイント高まった。GDP比の上昇は、経済成長の速度以上に借金が増えていることを示す。増加ペースは新型コロナウイルス禍前(14年末〜19年末)の年平均0.9ポイントより明確に高まった。

「雪だるま式」の財政悪化
債務の増加額がもっとも大きいのは、1年で2.9兆ドル(9.5%)増えた米国だ。バイデン大統領は4月、11月の大統領選をにらみ、2300万人を対象にする学生ローンの借り手救済策を公表した。
ロシアが侵略するウクライナへの支援策も加わり、米議会予算局(CBO)は24会計年度(23年10月〜24年9月)の財政赤字を1.9兆ドルと従来試算の1.3倍に修正した。
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は債務問題が「最重要の問題だ」と述べた。積極財政と高金利政策の結果、コロナ禍まで0.5兆ドル前後だった利払い費(年換算)は23年10〜12月期に1兆ドルを超え、直近の4〜6月期も増え続けている。
利息の支払いでさらに財政が悪化し、債務が膨らみ続ける「雪だるま式」の財政悪化が現実味を帯びる。

フランスで財政拡張派が勝利
ユーロ圏の債務も4500億ドル(3.4%)増え、膨張が止まらない。
フランスでは年金改革の見直しなど家計支援の大幅な強化を主張した左派連合や極右が勢力を拡大した。仏シンクタンクのモンテーニュ研究所によると、最大勢力になった左派連合が掲げる政策では年金改革の撤回や生活必需品の価格抑制などで年間1790億ユーロ(約29兆円)の財政赤字を招く。
極右の国民連合(RN)も電気・ガスへの付加価値税の引き下げなど経済対策を表明してきたが、モンテーニュ研によると財政赤字の規模は左派連合が突出する。バラマキの色合いが濃い財政拡大策が並んだ。選挙戦のさなかにはドイツ国債と比べたフランス国債の利回りが急上昇し、株価が大きく下げた。
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は6月、フランスやイタリアなど域内7カ国の財政赤字が過大だとして、財政規律の改善に向けた勧告を表明した。
日本は債務残高が1兆ドル(9.8%)減った。もっともこれは円安・ドル高によって、ドル建てでみた金額が小さくなった影響もある。日本の財政赤字は続いており、円建てでみた残高は拡大を続けている。

選挙イヤーは赤字が拡大
国際通貨基金(IMF)によると、選挙イヤーは財政赤字が例年より大きくなりやすい。168カ国の過去の事例を検証した結果、GDP比でみた財政赤字は選挙のある年に事前予測を0.4ポイント上回った。ガスパール財政局長は「有権者の支持を得たい政権が景気浮揚策を打ち出すため」と分析し、財政悪化は選挙後も続きやすいと警告する。
IMFは各国の政党公約を分析する「マニフェスト・プロジェクト」のデータを分析し、有権者がより財政支援を求める傾向を強めていると指摘した。60〜90年代には先進国で全体の1割強だった財政拡張的な公約が、20年には2割弱に増えたという。
高齢化が進む先進国では経済成長の鈍化と社会保障の給付増が財政を圧迫する。拡大を続ける格差が政治への圧力となり、減税や補助金など財政支出の増加につながっている面もある。世界経済の分断で高まる地政学的なリスクも政府に防衛費・軍事費の積み増しを迫る。

問われる政治の力量
低金利や中央銀行による国債の大量購入など、主要国は借り入れコストを意識しなくて済む時代が長く続いた。新型コロナウイルス禍後の高インフレを契機にした金融引き締めは、持続的で効率的な財政支出について各国に再考を迫っている。
成長に陰りが見え始めた中国も財政頼みの構図は共通する。中国はIIF集計で直近1年間の債務の拡大規模が1.4兆ドル(10.3%)と米国に次いで大きかった。
中国当局によると、23年の中央と地方政府の債務残高は前年比16%増の70兆元(約1400兆円)で、24年に入ってからも6月までの税収が前年同期比6%減と財政は厳しい状況が続く。
財政悪化は国債の格下げなどを通じて国債金利の上昇を招く懸念がある。財政赤字に歯止めをかけ、債務の経済規模に対する比率(GDP比)を一定に抑えることができなければ、財政は持続できなくなる。歳出の優先順位を決め、有権者を説得する政治の力量が問われることになる。


(提供:2024年8月13日 日本経済新聞)


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