アクシア・プロパティ・ソリューションズ株式会社

福岡不動産市場レポート(2024年7月時点)

福岡のオフィス開発計画

日本不動産研究所「全国オフィスビル調査(2023年1月時点)」によれば、福岡市は、新耐震基準以前(1981年以前)に竣工したオフィスビルの割合が34%と、札幌市や京都市と並んで高い水準にある。
そこで、これら築40年以上が経過したオフィスビルの建て替えを促す目的で、天神地区では「天神ビックバン」プロジェクト、博多駅前では「博多コネクティッドボーナス」が進行中である。


▼「天神ビックバン」プロジェクト

天神地区では、容積率や航空法の高さ制限の緩和等により再開発を誘導する「天神ビックバン」プロジェクトが2015年にスタートした。
このプロジェクトでは、初期設備投資で3,500億円の増収効果が発生すると試算されている。
天神地区では、「天神ビックバン」を活用した再開発が進展している。「旧大名小学校跡地」で、25階建て(延床面積約9.1万㎡)の複合ビル「福岡大名ガーデンシティ」が2023年3月に竣工した。
同プロジェクトでは、オフィスや商業施設のほか、九州初となるラグジュアリーホテル「ザ・リッツ・カールトン ホテル」が2023年6月に開業した。
2024年以降も、再開発計画が複数予定されている。西日本鉄道は、「福岡ビル」跡地の天神一丁目 11 番街区に「ONE FUKUOKA BLDG.」(延床面積約14.7万㎡・地上19階建て)を開発し、2024年12月に竣工予定である。
また、ヒューリックは「ヒューリック福岡ビル」を、ホテルを核とした大型複合商業ビル(延床面積約2.1万㎡・地上19階建て)に建て替えを行い、2024年12月に竣工予定である。
2025年は、日本生命保険と積水ハウスが「日本生命福岡ビル」と「福岡三栄ビル」を、オフィスを核とした大型複合ビル「天神ブリッククロス」(延床面積約3.7万㎡・地上18階建て)に建て替えを行い、2025年4月に完成予定である。
また、住友生命保険と福岡地所は、天神2丁目で「住友生命福岡ビル」と「天神西通りビジネスセンター」を、オフィスを核とした大型複合ビル(延床面積約4.2万㎡・地上24階建て)に建て替えを行い、2025年5月に完成予定である。
その後も、天神ビジネスセンターに隣接する「福岡市役所北別館跡地」および「メディアモール天神(MMT)跡地」で、天神一丁目761プロジェクト合同会社と福岡地所は、オフィスを核とした大型複合ビル「(仮称)天神ビジネスセンター2期計画」(延床面積約6.2万㎡・地上18階建て)を開発し、2026年6月を竣工予定である。
また、三菱地所は複合商業施設「イムズ跡地」で、オフィスとホテルを核にした複合ビル「(仮称)天神 1-7 計画」(延床面積約7.4万㎡・地上21階建て)を開発し、2026年12月に竣工予定である。
同プロジェクトでは、総面積約8,000坪、基準階面積約790坪、想定就業者数約3,000人のオフィスを整備するとしている。


▼「博多コネクティッドボーナス」

福岡市は、2019年5月にビルの建て替えを促す優遇処置制度「博多コネクティッドボーナス」を公表し、博多駅周辺の再開発を後押ししている。このプロジェクトでは、延床面積は34.1万㎡から49.8万㎡へ1.5倍に拡大、雇用数は3.2万人から5.1万人へ1.6倍に拡大、年間約5,000億円の経済活動波及効果が発生すると試算されている。
博多駅周辺では、「博多コネクティッドボーナス」を活用した再開発が進んでいる。JR九州、福岡地所、麻生の3社で構成する企業グループは、「福岡東総合庁舎敷地」を活用し、「コネクトスクエア博多」(延床面積約2.2万㎡・地上12階建て)を開発し、2024年3月に竣工した。
2025年は、中央日本土地建物が博多区博多駅前3丁目で、13階建てのオフィスビル「(仮称)博多駅前三丁目プロジェクト」(延床面積約1.3万㎡)を開発し、2025年6月に完成予定である。また、西日本シティ銀行は福岡地所と共同で、博多駅前の保有ビル(本店本館ビル・本店別館ビル・事務本部ビル)を連鎖的に建て替える。その第一弾として、本店本館ビルを、オフィスを核とした複合ビル(延床面積約7.5万㎡・地上14階建て)に建て替えを行い、2026年1月に竣工予定である。


福岡の賃貸オフィス市場

▼空室率および賃料の動向

三幸エステートによると、福岡市の空室率(2024年7月時点)は、4.6%(前年比▲0.5ppt)となった。空室率は、「福岡大名ガーデンシティ」などの大規模ビルの竣工に伴い一時上昇したが、その後は人材確保や従業員満足度の向上などを目的とした立地改善や建物設備のグレードップを図る移転需要に支えられて、改善している。 福岡市の空室率を規模別にみると、「中型7.3%(前年比+0.7ppt)」が上昇する一方、「大規模3.8%(同▲1.0ppt)」、「大型3.6%(同▲0.3ppt))」、「小型6.4%(同▲0.4ppt)」は低下した。 空室率が改善に向かうなか、成約賃料は安定的に推移している。2023年下期の福岡市の成約賃料は、前期比▲3.1%、前年比+1.8%となった。 2023年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、大阪市が低下、東京都心5区、名古屋市、札幌市が横ばい、仙台市と福岡市は上昇した。また、成約賃料は、大阪市が下落、福岡市が横ばい、その他都市は上昇となった。 賃料と空室率の関係を表した福岡市の賃料サイクルは、2012年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」の局面が続いていたが、2020年下期以降「空室率上昇・賃料上昇」局面を経て、現在は「空室率上昇・賃料下落」の局面に向かいつつある。


▼福岡オフィス市場の需要見通し

オフィスワーカー数の見通し
住民基本台帳人口移動報告によると、福岡市は転入超過が長期的に続いており、2023年の転入超過数は+8,911人となり、前年から+48%増加した。
また、2023年の福岡県の就業者数は262.4万人(前年比+0.4万人)となった。12年連続で前年比プラスとなったが、2020年以降、増加率は緩やかなものとなっている。

以下では、福岡のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「福岡財務支局」の管轄下3県(福岡県・佐賀県・長崎県)」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI(福岡財務支局)は、コロナ禍を受けて2020年第2四半期に「▲53.7」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら推移し、2024年第2四半期は「▲0.9」となった。
また、「従業員数判断BSI(福岡財務支局)は、新型コロナウィルス感染拡大後、「+22.5」(2020年第1四半期)から「+5.2」(第2四半期)へ大幅に低下した。その後は順調に回復し、足もとでは「+25.9」とコロナ禍前の水準を上回り人手不足感が強まっている。

福岡商工会議所「地場企業の経営動向調査」(2024年3月実施)によれば、福岡商工会議所の会員企業に「人手不足の状況」を尋ねたところ、「人手が不足している」との回答が66%を占めた。「人手不足対策の取組」についての質問では、「採用活動の強化」(67%)との回答が最も多かった。
また、帝国データバンク「2023年度の雇用動向に関する九州企業の意識調査」によれば、九州地方に本社を置く企業にどのような職種の人材を求めているか質問したところ、「販売の職種」(43%)との回答が最も多く、次いで、「専門的・技術的職業」(29%)が多かった。

福岡市では、人口の流入超過が継続しており、福岡県の就業者は増加が続いている。また、「企業の経営環境」はコロナ禍で受けたダメージから立ち直り順調な回復を示している。「雇用環境」については人手不足感が強く、営業職や専門・技術職を中心に企業の採用意欲が高まっている。 以上を鑑みると、福岡市のオフィスワーカー数が大幅に減少する懸念は小さいと言える。


▼テレワークの普及に伴うオフィス利用形態の変更

総務省「通信利用動向調査」(企業編)によれば、九州・沖縄地方に所在する企業にテレワークの導入状況を尋ねたところ、「導入している」との回答は、2019年の13%から2000年の37%へと大幅に増加し、その後は4割程度を占めて推移している。また、「テレワークの導入目的」について、「新型コロナウィルス感染症への対応のため」(75%)との回答が最も多く、次いで「非常時の事業継続に備えて」(49%)、「勤務者のワークライフバランスの向上」(40%)、「労働生産性の向上」(38%)、「業務の効率性の向上」(37%)の順に多かった。
コロナ禍を機に普及したテレワークは、コロナ収束後もワークライフバランスや労働生産性の向上等の観点から継続する企業が多いと推察される。

こうしたなか、福岡市でもフリーアドレス等を導入する動きが広がっている。ザイマックス不動産研究所「大都市圏オフィスワーカー調査2023①働き方の実態とニーズ編」によれば、福岡市のオフィスワーカーに対して、オフィスの設備で実際に利用しているもの(「現状」)と、在籍するオフィスにあってほしいと思うもの(ニーズ)を尋ねたところ、「フリーアドレス」は「現状」では15.9%、「ニーズ」では18.8%を占めた。また、「リモート会議用ブース・個室」は「現状」では10.3%、「ニーズ」では14.2%を占めた。フリーアドレスを導入して固定席の割合を減らし、リモート会議用ブース・個室を充実させる等、在宅勤務を取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィス利用が定着し始めている模様だ。
また、テレワークが普及し、働き方の多様化を進んだ結果、「サテライトオフィスを設置する企業が増加している。ザイマックス不動産総合研究所の調査によれば、福岡市における「サテライトオフィス」の導入率は、2020年春の3.7%から2023 年春の15.6%へと約4倍に増加した。「サテライトオフィス」を開設する場所として、「レンタルオフィスや「シェアオフィス」、「コワーキングスペース」等の「サードプレイスオフィス」を利用するケースが増えている。

弊社の調査によれば、主要政令指定都市の「サードプレイスオフィス」の拠点数は、東京23区(1,428 拠点)、大阪市(251拠点)、横浜市(160拠点)に次いで、福岡市(98拠点)が多かった。テレワークを取り入れた働き方が定着するなか、「サードプレイスオフィス」市場の拡大が、福岡市のオフィス需要を押し上げると考えられる。


▼半導体投資拡大がもたらすオフィス需要への影響

AI技術の進展等に伴い、半導体市場の拡大が期待されている。半導体関連製造業において、九州地方は以前から高いプレゼンスを誇り、「シリコンアイランド」と呼ばれる。九州地方の2023年の集積回路(IC)の生産額は前年比+24%増加の1兆1533億円となり、16年ぶりに1兆円を超えた。
九州経済調査協会の調査によれば、九州での半導体関連の設備投資は6.0兆円以上が予定されている。また、同協会は、半導体関連の設備投資の経済波及効果は10年間で約20.1兆円に達すると推計している。

九州地方の中核都市である福岡には半導体関連企業が集積している。経済産業省「九州半導体関連企業サプライチェーンマップ」によれば、福岡県内に所在する半導体関連企業・事業所は「456」に達する。
近年でも、福岡中心部の新築オフィスに拠点を開設する動きがみられる。世界最大の半導体受託製造会社であるTSMCの熊本工場の運営会社に出資するソニーセミコンダクタソリューションズは、「博多イーストテラス(2022年竣工)」に福岡オフィスを2022年9月に開設した。また、台湾の大手銀行である玉山銀行はTSMCの進出を機に、「天神ビジネスセンター」に福岡支店を2023年9月に開設した。
また、福岡県は、2023年8月に九州・全国の半導体人材不足に対応するため、半導体分野やデジタル産業分野の重要技術に精通した人材を育成する「福岡半導体リスキリングセンター」を福岡市早良区百道に開設した。

経済産業省「半導体デジタル産業戦略」によれば、政府は、国内で半導体を生産する企業の合計売上高を2020年の5兆円から2030年までに15兆円超に拡大することを目標としており、設備投資への助成金等の支援策を開始している。今後、半導体関連の設備投資や企業進出が活発化することで、福岡のオフィス需要の高まりが期待される。


▼「金融・資産運用特区」指定がもたらすオフィス需要への影響

2024年6月に、政府は、①東京都、②大阪府・大阪市、③福岡県・福岡市、④北海道・札幌市の4都市を「金融・資産運用特区」に指定すると発表した。
「金融・資産運用特区」では、 (ⅰ)国内外の金融・資産運用業者の集積、(ⅱ)金融・資産運用業者等による地域の成長産業の育成支援、(ⅲ)成長産業自体の振興・育成、という観点で取組みを進めていくとしている。
また、上記の4地域は、各地域の特色を活かした特区のコンセプトを掲げている。福岡県・福岡市は、「スタートアップ 金融・資産運用特区」を掲げて、アジアの活力を取り込みながら、福岡・九州のスタートアップや県内に集積する成長産業に向けて資金を供給するとしている。こうした取組みは、産学官が連携した「TEAM FUKUOKA」(25機関が参画)が中心となって推進する。同機関は2024 年4月末時点で24 社を誘致し、進出企業は天神地区や博多駅前地区の主要ビルに入居している。今後、金融・資産運用業やスタートアップの企業進出が活発化することで、福岡のオフィス需要の高まりが期待される。


▼福岡オフィス市場の供給見通し

2023年は「福岡⼤名ガーデンシティ」等の大規模ビルが竣工し、新規供給量は前年比+76%の約2.7万坪となった。
2024年は「コネクトスクエア博多」や「ONE FUKUOKA BLDG.」等、大規模ビルが竣工する予定であり、新規供給量は前年度と同水準の約2.7万坪となる見通しである。
2025年以降も、「天神ビックバン」プロジェクトや「博多コネクティッドボーナス」を背景に複数の大規模開発が進行中である。新規供給面積は2025 年が約1.8万坪、2026年が約2.5万坪に達する見通しである。総ストック量に対する今後3年間(2024 年~2026年)の供給割合は7.5%と、主要地方都市の中で最も高くなる見込みである。


▼福岡のオフィス賃料見通し

前述の新規供給見通しや経済予測 、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2028年までの福岡のオフィス賃料を予測した。

福岡市では、人口の流入超過が継続しており、福岡県の就業者は増加が続いている。また、「企業の経営環境」はコロナ禍で受けたダメージから立ち直り、順調な回復を示している。「雇用環境」については人手不足感が強く、営業職や専門・技術職を中心に企業の採用意欲が高まっている。以上を鑑みると、福岡市のオフィスワーカー数が大幅に減少する懸念は小さいと言える。
福岡でも、フリーアドレスを導入し、リモート会議用ブース・個室を充実させる等、テレワークを取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィス利用が増えている。また、半導体投資拡大や「金融・資産運用特区」の指定に伴い、企業進出が活発化することで、福岡のオフィス需要の高まりが期待される。
一方、福岡市では「天神ビックバン」プロジェクトや「博多コネクティッドボーナス」を背景に、多くの大規模開発が進行中である。今後3年間(2024 年~2026年)の総ストック量に対する供給割合は主要地方都市の中で最も高い水準になる。以上を鑑みると、福岡の空室率は当面の間、上昇基調で推移すると予測する。
福岡のオフィス成約賃料は、空室率の上昇に伴い、下落基調で推移する見通しである。2023年の賃料を100 とした場合、2024 年は「98」、2028年は「91」への下落を予測する。ただし、ピーク(2021年)対比で▲9%下落するものの、2018年の賃料水準と同程度であり、大幅な賃料下落には至らない見通しである。


福岡の賃貸マンション市場

▼福岡市の転入超過数の動向

まず、賃貸マンションの需要を見通すうえで重要となる人口の転入超過数を確認する。
総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」によると、福岡市の転入超過数(日本人)は、安定してプラスで推移しており、2023年は+11,792人となり、前年から+21%増加した。
転入超過数を区別にみると、「東区」、「博多区」、「中央区」は、一貫して高水準のプラスを維持している。また、2023年は全ての区で転入超過となり、特に、「東区」、「南区」、「早良区」は、2010年以降の最高値に迫る水準となった。


▼福岡市の建築コストの動向

次に、建築コストの動向を確認する。建設物価調査会「建築費指数」によれば、福岡の「集合住宅(RC 造)」の建築費は、長期的に上昇基調で推移している。2024年6月は前年比+7%上昇の「133.0」となった。
国土交通省「建設労働需給調査」によれば、建設業の労働需給を示す「建設技能労働者過不足率」(九州)は、コロナ禍後、一時期「人手過剰」に転じたが、一貫して「人手不足」で推移しており、2024年6月は「+1.4」となった。


▼福岡市の住宅着工戸数の動向

次に、住宅着工戸数(貸家・共同住宅)の動向を確認する。国土交通省「建築着工統計調査」によれば、2023年の福岡市の住宅着工戸数は前年比▲20%の6.9千戸となり、2011年以降で最も低水準であった。
規模別に住宅着工戸数をみると、福岡市では、コンパクトタイプ(31㎡~60㎡)が一貫して最も多く供給されている。2023年は、ファミリータイプ(61㎡~)が前年比+15%増加した一方、コンパクトタイプが同▲13%、シングルタイプ(~30㎡)が同▲61%と大幅に減少した。
また、区別では、「博多区」が長期的に高水準の供給量となっている(2012年~2023年の平均:約2.6千戸)。2023年は、「博多区」が最も供給量が多く、次いで「東区」、「西区」の順に多かった。


▼福岡の賃貸マンション稼働率・賃料の動向

福岡市に所在するJ-REIT保有物件の平均稼働率は、2012年以降96%前後を安定的に推移していており、2023年は96.9%となった。
福岡市のマンション賃料は、良好な需給環境に支えられ、上昇基調で推移している。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2024年1四半期は前年比でシングルタイプが+4.2%、コンパクトタイプが+5.4%、ファミリータイプが+6.6%となり、全ての住居タイプが前年比でプラスとなった。


福岡の不動産投資市場

▼福岡の地価動向

福岡の地価は、商業地、住宅地ともに上昇している。国土交通省「地価LOOKレポート(2024年第1四半期)」によると、博多駅周辺(商業地)は前年比「0~3%」の上昇、大濠(住宅地)は前年比「3~6%」上昇、となった。同レポートでは、「商業地では、オフィスビルの新規供給が続くためオフィス賃貸市況の先行きに不透明感が残るものの、投資適格物件の需給が逼迫する状況が当面続き、地価はやや上昇で推移すると予想される。住宅地では、マンション開発素地に対する旺盛な需要は当面続くと見込まれるが、高価格の物件は販売に苦戦することが懸念されており、地価の上昇幅は縮小すると予想される。」としている。


▼J-REITによる物件取得額(九州・沖縄)

J-REITによる2024年上期(1-6月)の物件取得額(九州・沖縄)は650億円となり前年同期比+27%増加した。アセットタイプ別では、物流施設(52%)・ホテル(34%)・オフィスビル(12%)・住宅(2%)となり、福岡の物流施設や沖縄のホテルなど100億円を超える大型物件の取得がみられた。


▼福岡のキャップレートの動向

大規模金融緩和を背景に投資マネーが不動産取引市場に流入し、福岡市においても、不動産利回りの低下が継続している。J-REITの開示データをもとに、福岡市に所在する大規模オフィスビルの還元利回り(以下、キャップレート)を推計すると、2023年は前年比▲0.2ppt低下の3.4%となった。
同様に、住宅のキャップレートは3.9%(前年比▲0.2ppt)、商業は3.6%(同▲0.2ppt)、ホテルは4.3%(同▲0.1ppt)、物流施設は4.1%(同▲0.2ppt)となった。
ところで、ニッセイ基礎研究所の「不動産市況アンケート」(2024年1月実施)において、「今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資エリア」について質問したところ、「東京都心5 区」(59%)に次いで「福岡市」(20%)の回答が多かった。福岡は、容積緩和等の施策を背景に複数の大規模開発が進行中であり、投資家からの成長期待も大きいエリアである。

こうしたなか、日本銀行は、2024年3月の金融政策決定会合で、マイナス金利政策の解除と長短金利操作(YCC)の撤廃を決定した。これを受けて、10年国債利回りは、5月下旬に11年ぶりの水準となる1%台まで上昇した。これまでキャップレートは低下基調で推移してきたが、今後は、金融政策正常化に伴うベース金利の上昇にあわせて反転に向かう可能性もあり、転換点の見極めについて注視が必要である。 


(提供:2024年8月27日 ニッセイ基礎研究所 寄稿コラム)


コラム一覧に戻る